相続登記ねっとの相続登記の流れのページに書いたように、遺言書がある場合、遺言書の記載に従って登記手続きを進めていきます。
遺言書がない場合、民法に規定された法定相続分通り不動産を取得するのであれば遺産分割協議書の作成は必要ありません。
法定相続分を修正して不動産を取得する場合に遺産分割協議書が必要になります。
そもそも遺産分割とは何でしょうか?
「遺産分割とは、共同相続における遺産の共有関係を解消し、遺産を構成する個々の財産を各相続人に分配して、それらを各相続人の単独所有に還元する手続きをいいます。
相続が開始すると、被相続人の財産は相続人に移転し(民896本文)、相続人が複数ある場合には、遺産は共有に属します(民898条)。
これを単独所有に戻す手続きが遺産分割手続きです。」
(夏苅 一・神谷美穂子(2010).第1章 総論 永石一郎・鷹取信哉・下田 久(編)ケース別遺産分割協議書作成マニュアル 新日本法規出版 pp.3.)
単独に戻す場合に限定するのは、若干不正確だと思いますが、イメージは伝わるのではないでしょうか?
遺産分割イコール「法定相続分を修正する手続き」と言えると思います。
では、遺産分割協議書にどのような内容を記載する必要があるのでしょうか?
遺産分割協議書については、民法上、特に規定してません。
「内容については法定されているわけではないので、最低限登記申請時の登記原因証明情報に足る事項が記載されている必要があります。
そうすると、被相続人及び相続人の特定、相続の対象となる不動産の特定、分割協議の結果としての各相続人が取得する不動産とその持分が記載された書面に分割協議の参加者全員の署名と実印の押印があればよい。」
(初瀬智彦・小口文隆・浦田 融(2013).司法書士入門~いまさら聞けない登記実務~第8回 相続登記(2) 登記情報621号pp.57.)
つまり、「誰が亡くなって、その方がどのような財産を持っていて、その方の相続人が誰で、その相続人がどの財産をどれだけ取得するのか」について相続人全員の協議によって
決めたことを証する書面で相続人全員の署名及び実印での押印があればよいということになります。
法務省のHPに遺産分割協議書のサンプルがあったのでご参照下さい。
従来相続による所有権移転登記の申請において、除籍等の一部が滅失等していることにより、その謄本を提供することができないときは、戸籍及び残存する除籍等の謄本のほか、滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書及び「他に相続人がない」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書添付)を提供する取り扱いとされています。
「他に相続人がない」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書添付)を後日取得することが困難な状況があるので、当事務所でもそのことを念頭に手続きを主導して参りました。
平成28年3月11日に従来の取り扱いを変更する通達が出ました。
その日以降は、戸籍及び残存する除籍等の謄本に加え、除籍等の滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書が提供されていれば、相続登記をして差し支えないものとされています。
つまり、「他に相続人がない」旨の相続人全員による証明書(印鑑証明書添付)を提供する必要がなくなりました。
除籍等が滅失している場合の相続登記はかなり負担が少なくなり、相続人の方にとって喜ばしい通達変更だと思います。
相続登記をするには、被相続人(亡くなられた方)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して、被相続人の相続人が誰なのかを確定する必要があります。
しかしながら、まれに戸籍の一部が取得できない場合があります。
まず、除籍の保存期間が切れた場合です。
前回のコラムでも登場した除籍ですが、平成22年6月1日以降は政令で150年間存続されるように定められています。
しかし、150年という期間は、あくまでも平成22年6月1日以降の除籍に関するものです。
それ以前は除籍となってからの存続期間は、80年でした。
そのため、出生から死亡までのつながりが証明出来ないことがございます。
過去当事務所でも除籍の保存期間が切れて、相続人を探知出来ない事がありました。
また、戦災で戸籍が焼失して戸籍が取得出来ないこともあります。
昔はご存じの通り紙で保存されていました。
原本を含め副本等も戦災で燃えてしまうと戸籍を復元することが出来ませんでした。
過去当事務所でも空襲により戸籍が燃えてしまい、相続人を探知出来ない事がありました。
ちなみに、現在では、戸籍はコンピューターによりデータ管理してます。
最近では東日本大震災によって滅失した戸籍データを復元したことが発表されたことは新聞等でご覧になった方もいらっしゃると思います。
東日本大震災により滅失した戸籍の再製データの作成完了について
ところで、かつて日本だった地域も、当時は戸籍によって管理されていました。多くの場合は失われていますが、現在も保存されている場合もあります。
例えば、旧樺太の戸籍は、ごく一部の村に関するものは、現在でも取得出来ます。
意外と思われる方もいらっしゃると思います。
取得窓口は他の戸籍とは異なり市区町村ではなく外務省アジア大洋州局地域政策課外地整理班です。
戸籍には、「除籍謄本」や「改製原戸籍」などの種類があります。
一つの戸籍に記載されている者の全員が死亡、婚姻、離婚、転籍などの理由で除かれた場合などに、その戸籍は閉鎖され、「除籍」としてそれまでの記録が保存されます。
ちなみに、戸籍の電算化前の除籍に記載されている全員を証明する証明書を「除籍謄本」と呼びます。
戸籍の電算化後に除籍となった場合、その証明書は「除籍全部事項証明書」になります。
戸籍法の改正に伴い、管轄省令により戸籍を改製した際に、戸籍の書式が変更されると、それまで使用していた戸籍を新しい書式に沿って作り直します。
その元となった古い書式の戸籍が「改製原戸籍」です。
この改製ですが、昭和以降では2回実施されています。
まず、昭和32年6月1日法務省令第27号による改製が行われました。
この改製は、昭和22年の民法改正に基づき、戸籍法が改正されたことによる改製です。
それまでは、戸主を中心として「家」を一つの単位とし、そこに帰属する兄弟やその妻、甥、姪などの一族全員を同じ戸籍に記載していましたが、この改製によってより小さく「夫婦とその子」を単位として編成されました。
実際の改製作業が行われた時期は、自治体によりばらつきがあり、昭和33年から40年頃にかけてです。
次に、平成6年法務省令51条附則2条1項による改製が行われました。
この改製は、戸籍事務の電算化による改製です。
この改製によって戸籍が縦書きから横書きになり、記載方式が、それまでの戸籍に記載された個々人の事情を文章にてまとめていた方式から、項目毎に整理してより端的にまとめるようになりました。
この改製作業も自治体ごとに行われるため、実施時期は自治体によって異なり、現在においてなお未改製の自治体があります。
戸籍とは、その人の氏名、生年月日の他に、出生、死亡、婚姻、離婚、養子縁組等、身分関係を登録し、それを証明するものですが、このような制度は日本以外の諸外国にもあるのでしょうか?
結論からいうと、戸籍制度の整っている国は、日本の他には台湾程度で、その他の国には戸籍制度がなく、むしろ、日本、台湾が稀な国であり、世界のほとんどは、戸籍制度をもっていません。
ちなみに、韓国にもかつて戸籍制度がありましたが、西暦2008年1月1日付けで廃止されました。
これらの国で身分関係をあきらかにする証明書としては、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書程度しか存在せず、公的な証明書による相続関係の証明は困難を極めます。
日本に比べて諸外国では被相続人自身による遺言が当たり前のようにされています。
その要因の一つに、諸外国において戸籍制度がなく、相続人が亡くなった被相続人の身分関係を証明することが、大変だということが挙げられると思います。
ちなみに、日本において遺言が数が増えてきたとはいえ、諸外国に比べてまだまだ数が少ないのが現状です。
遺言については、別のコラムで書きたいと思います。